手賀沼の雪景色

   志賀直哉 『雪の日 ー我孫子日誌ー』  

    「雪は降って降っている。書斎から細い急な坂をおりて、
    田圃路に出る。沼の方は一帯に薄墨ではいたように
    なって、何時も見えている対岸が全く見えない。沼べり
    の枯葭が穂に雪を頂いて、その薄墨の背景からクッキリ
    と浮き出している。その葭の間に、雪の積もった細長い
    沼船が乗捨ててある。本統に絵のようだ。東洋の勝れた
    墨絵が実にこの印象を確に掴み、それを強い効果で現し
    ている事を今更に感嘆した。所謂印象だけではなく、そ
    れから起って来る吾々の精神の勇躍をまで掴んでいる点
    に驚く。そして自分は目前のこの景色に対し、彼等の表現
    外に出て見る事はどうしても出来ない気がした。」

     
       雪の日の手賀沼畔  遊歩道にて 2008.2.3.


     1920年に発表されたこの作品には、志賀直哉と同じよう
    に我孫子に住んでいた柳宗悦も登場します。

     東洋への着目、彼らが都内ではなく我孫子に住んでいた
    ということ、流行感冒の話、これらの題材をどう読んだら
    いいのでしょうか。

     以前読んだ時は、波乱のあるストーリーではないので
    印象が薄かったです。しかし、今もう一度読んでみて、
    今度は少し深読みしたくなりました。

     手賀沼の雪景色の撮影ができた日は2月3日。
    『雪の日』の日付は2月8日になっています。志賀が描いた
    のは、ちょうど写真のような雪景色だったのだと思います。

                      
                       手賀沼に向かう坂道

     『雪の日』  新潮文庫「小僧の神様 城の崎にて」に収録
          Good Study 良学舎